金属光沢への憧憬  神谷佳明
 
 古墳時代の後半(6世紀中頃)に、朝鮮半島から金色に輝く銅製の器がもたらされました。それまで、食器といえば赤い土師器(はじき)と灰色の須恵器(すえき)が一般的だったところに、神秘的な輝きをもった金色の器が加わったのです。
 希少で貴重な銅製の器は、金器や銀器と並んで器の頂点に置かれ、ヤマト政権の中枢の有力者や地方の有力豪族層の一部しか所有することはできませんでした。時代は下り、飛鳥時代になると下位の有力者や豪族層にも広がりますが、所有者でも日常食器として使用できず、多くの人々にとってはまだまだ高嶺の花でした。そこで憧(あこが)れの器の代用品として銅鋺模倣の須恵器や土師器が作られるようになりました。

● 暗文の謎を探る
 7世紀の初頭、都で使われる土師器に篦(へら)のような道具で内面に放射状の磨きを入れた杯が現れます。上野の地方でも7世紀の中頃になるとこれとよく似た土師器の杯が作られるようになります。この篦磨きを「暗文(あんもん)」と呼び、金属器のもつ光沢を表現したものと考えられます。そこで私たち埋蔵文化財調査事業団では実際に金属光沢を検証するために、佐波理(さはり)と呼ばれる当時の銅鋺の復元品を作成しました。佐波理は銅と錫(すず)の合金で金色に輝く硬い合金です。この復元した鋺を明かりにかざして見たところ、内面の中心から放射状に細い影のような線が現れました。暗文は、実は結像(けつぞう)という現象によって現れたこの細い線を表現したものであることがわかりました。


● 模倣につぐ模倣
 銅鋺は、飛鳥時代になると天皇をはじめとする貴族の間で高級食器として珍重されました。しかし、当時の技術では大量生産は難しく日常食器として銅鋺を使用することはできませんでした。そこで日常の食器である土師器や須恵器に銅鋺の形を模倣したり、金属器のもつ光沢と平滑(へいかつ)さを表すために表面を磨き内面に暗文を入れた土師器が出現しました。この暗文土師器が上野などの地方に入ると暗文土師器をさらに模倣した土師器が作られるようになりました。こうして地元で作られた土器は、模倣の模倣であるため銅鋺の雰囲気だけを伝えるだけのものになりました。

畿内産土師器 畿内系土師器(上野産暗文土師)
畿内産土師器 畿内系土師器(上野産暗文土師)

● 銅鋺について調べる
毛利光俊彦「青銅製容器・ガラス容器」「古墳U副葬品」古墳時代の研究8雄山閣出版1991
金子裕之「鋺は仏の食器」「木簡は語る」歴史発掘12 講談社1996

 《参 考》 県内の銅製容器出土例
1.綿貫観音山古墳(高崎市綿貫町)
 全長98bの前方後円墳。玉子形の胴部をした胴水瓶が横穴式石室内部から出土。群馬県立歴史博物館に展示されています。
2.山王廃寺(前橋市総社町総社)
 「放光寺」と想定される白鳳時代の寺院跡。銅鋺は4個体出土。そのうちの1個体は緑釉陶器の水注、椀、皿などといっしょに埋納された状態で見つかっています。
3.天神遺跡(前橋市元総社町)
 推定上野国府域の西南部に位置する平安時代の集落跡。銅鋺は竪穴住居から2個体出土。
4.鳥羽遺跡(前橋市鳥羽町他)
 上野国府の工房跡やこれに関係する集落跡。銅鋺は竪穴住居から2個体出土。埋蔵文化財センター発掘情報館に復元されたものといっしょに展示されています。
5.国分境遺跡(群馬郡群馬町北原)
 山王廃寺の西側に位置しています。竪穴住居が造られた年代や出土した遺物から山王廃寺に付随する集落跡と考えられます。銅鋺は竪穴住居から出土し器種は鋺ではなく花瓶と推定されます。
6.下東西清水上遺跡(前橋市青梨子町)
 竪穴住居を中心とする集落跡であるが隣接する下東西遺跡では奈良時代初頭の役所のような施設が見つかっていることから一般的な集落とは考えられません。銅鋺は竪穴住居から出土。
7.融通寺遺跡(高崎市下小鳥町)
 竪穴住居を中心とする集落跡。出土遺物には瓦塔や唾壷などがあることから寺院に付随集落の可能性が考えらます。銅鋺は遺構外の出土。
8.荒砥洗橋遺跡(前橋市二之宮町)
 古代の集落跡。銅鋺は竪穴住居から出土。
9.有馬遺跡(渋川市有馬・八木原)
 古代の集落跡。銅鋺は竪穴住居から出土。
10.白倉下原遺跡(甘楽郡甘楽町白倉)古代の集落跡
 銅鋺は竪穴住居から出土
11.五霊神社古墳(高崎市貝沢町)
 6世紀代の前方後円墳。銅鋺は横穴式石室内部から出土。
12.三本山古墳(高崎市小八木町)
 径25bの円墳。銅鋺は石室内から出土。
13.観音塚古墳(高崎市八幡町)全長90bの前方後円墳
 銅鋺は横穴式石室内より4個体出土、2個体は承台付有蓋鋺。高崎市観音塚古墳考古資料館に展示されています。
14.石原稲荷山古墳(高崎市石原町) 径30bの円墳
 
銅鋺は横穴式石室内部から出土。
15.諏訪神社北古墳の東に位置する古墳(藤岡市藤岡字東裏)
 現在は削平され残っていません。柴田常恵氏によって報告されています。
16.房子塚古墳(佐波郡玉村町大字茂木)
 前方後円墳。銅鋺は横穴式石室内部から出土、銅鋺は底部に脚部が剥離した痕跡があることから高脚付椀。
17.荒砥北部遺跡群富士山古墳T遺跡1号古墳(前橋市西大室町)径36メートルの円墳
 銅鋺は石室前庭部から出土。
18.白山古墳(勢多郡宮城村苗ヶ島)
 8世紀初頭の円墳。銅鋺は横穴式石室内部から出土、副葬品には銅鋺の他「和同開珎」がある。宮城村農村環境改善センターにて複製品が展示されています。
19.浅間山9号墳(邑楽郡千代田村大字舞木)
 径11bの小円墳。出土位置などの詳細は不明。
20.伝伊勢崎市波志江出土(伊勢崎市波志江町宮貝戸)
 現在埼玉県長瀞自然史博物館が所蔵。出土地の付近には多くの古墳が存在していたことから古墳から出土したものと考えられます。
21.旧滝川村出土(高崎市上滝・下滝・下斉田・宿横手・八幡原付近)
 現在東京大学総合資料館にて所蔵。詳細は不明。
22.前橋市総社町付近出土(前橋市総社町)
現在東京国立博物館にて所蔵。詳細は不明。