発掘情報館の展示風景:土偶
発掘情報館の展示風景:土偶

 発掘情報館の「縄文人の心を探る」のコーナーには土偶が展示してあります。中央にはハート形土偶。縄文時代の代表的な土偶です。このほかにも博物館などでいろいろな形の土偶をごらんになったこともあるでしょう。また社会科の教科書を開けば青森県や長野県の土偶をみることができるはずです。どの土偶をみてもその不思議な造形に目をうばわれながら、同時に謎が深まるのではありませんか。人間の形をあらわしていることはわかるものの、全体像はかなり抽象化されているからです。
 さて、このような土偶はなんのために作られたのでしょう。そしてそこからはどのような縄文人の姿が見えてくるのでしょうか。
 この疑問を解くためのキーワードは「心」です。
 大自然のなかで暮らす縄文人は生活の秩序を呪術(じゅじゅつ)という信仰に求めました。呪術とは神霊や魂など超自然の力により生活の安定をはかろうとする信仰です。豊猟や豊かな食用植物の採集あるいは厄災(やくさい)の忌避(きひ)など、生活全般の規範を呪術によって律していたのです。縄文社会はまさに呪術社会といえるのです。その意味でいえば、縄文時代の道具は多くのものが呪術に彩(いろど)られていることになります。耳飾りなどの装身具、石棒などの呪術具のほかに土器を飾る文様も呪術とかかわっているのです。そして、土偶はこのような信仰の代表的な遺物なのです。
 土偶は壊れて出土する例が多いことから、怪我(けが)や病気の治癒(ちゆ)を願って身代わりとしたという考え方があります。しかし、ここでは別の見方で土偶を考えてみることにしましょう。
 顔や身体の抽象化されているものの、ほとんどの土偶は乳房をつけ、さらに妊娠の表現をしています。つまり身ごもった女性を表しているのです。ハート形土偶をみてみましょう。
 ハート形の顔は不必要な部分を省略し眉から口までの輪郭で表現した造形で、さらに全体もみごとに抽象化されています。そして、胸には乳房があり腹部には縦線により妊娠を表しているのです。このことから土偶は生命誕生の神秘性を具現化(ぐげんか)したもので、生きることへのひたむきな願いが込められていると考えることができるのです。さらに新たな生命の誕生に社会の永続性を希求(ききゅう)する人間の心もみえてくるのではないでしょうか。土偶は「生命の造形」といえるものです。
 展示室ではハート形土偶の横にパウル・クレーの人物画を並べています。驚くほど似ているこのふたつの造形はなにをものがたるのでしょうか。「みえるものを再現することではなく、みえないものに形をあたえることだ。」というクレーの芸術。おそらく3500年まえの縄文人も生命や心をみつめることでハート形土偶を造形したのではないでしょうか。
 さあ、土偶をガイドに「心」を探るタイムトラベルにでかけてみようじゃありませんか。