埋文事業団の原雅信さんは、土偶(どぐう)の研究をしています。
土偶というのは土で作られた人形のことで、縄文時代につかわれたものです。
原さんは、発掘情報館の展示室で、この土偶の展示を担当しました。
教科書や博物館で土偶を見たことがあるかな。
いろいろな形の土偶があるでしょう。それぞれ個性的な形をしているよね。
でもこれは何のためにつくられたんだろう?
おもちゃ?宇宙人?うーん何かなあ?
まず、土偶をよく観察してみよう。
それでは、ここにあるハート形土偶の複製品を見ながら考えてみようか。
情報館に展示してあるハート形土偶は、群馬県吾妻郡吾妻町にある郷原遺跡でみつかった土偶を複製したものです。
ほぼ完全なもので、造形的にも優れていることから縄文時代の代表的な土偶として、とても有名です。
高さが30センチメートルあり、土偶としては大きなものです。
今からおよそ3500年前のものだそうです。
それじゃ、この土偶は女性かなそれとも男性なのかな。
よく見てみると胸のところがふくらんで乳房が表現されていることがわかるでしょう。
そして、おなかの部分にある縦の線は妊娠している様子を表しているのです。
ということは女性。それも妊娠している女性というのが正解です。
縄文時代の土偶はこのハート形土偶に限らずほとんどが女性を表しています。
さらに妊娠を表現するものが多いことが特徴。
ここから土偶に込められた縄文人の心を読みとってみましょう。
そこには新しい生命の誕生への喜びと安産を願う祈りが込められているのです。
土偶は生命の大切さを知る縄文人の心の造形なのです。
さあ発掘情報館で、ハート形の顔をした土偶を直接みてみようじゃないか。
きっと新しい発見があるはずだよ。
それにまだわからないこともあるしね。
たとえば、なんでこんな顔をしてるんだろう?
重さはどのくらいかな?
背中はどうなっているのかな?
足の裏は? なんてね。ぼくたち研究員も待っています。
このハート形土偶の実物は、国の重要文化財で、東京国立博物館にあります。
情報館の展示室では、群馬県の遺跡から見つかった土偶や、ハート形土偶の複製品が展示されています。
原さんが語る、縄文人のこころの物語を、あなたも聞きに来ませんか?
発掘情報館の「縄文人の心を探る」のコーナーには土偶が展示してあります。中央にはハート形土偶。縄文時代の代表的な土偶です。このほかにも博物館などでいろいろな形の土偶をごらんになったこともあるでしょう。また社会科の教科書を開けば青森県や長野県の土偶をみることができるはずです。どの土偶をみてもその不思議な造形に目をうばわれながら、同時に謎が深まるのではありませんか。人間の形をあらわしていることはわかるものの、全体像はかなり抽象化されているからです。
さて、このような土偶はなんのために作られたのでしょう。そしてそこからはどのような縄文人の姿が見えてくるのでしょうか。
この疑問を解くためのキーワードは「心」です。
大自然のなかで暮らす縄文人は生活の秩序を呪術(じゅじゅつ)という信仰に求めました。呪術とは神霊や魂など超自然の力により生活の安定をはかろうとする信仰です。豊猟や豊かな食用植物の採集あるいは厄災(やくさい)の忌避(きひ)など、生活全般の規範を呪術によって律していたのです。縄文社会はまさに呪術社会といえるのです。その意味でいえば、縄文時代の道具は多くのものが呪術に彩(いろど)られていることになります。耳飾りなどの装身具、石棒などの呪術具のほかに土器を飾る文様も呪術とかかわっているのです。そして、土偶はこのような信仰の代表的な遺物なのです。
土偶は壊れて出土する例が多いことから、怪我(けが)や病気の治癒(ちゆ)を願って身代わりとしたという考え方があります。しかし、ここでは別の見方で土偶を考えてみることにしましょう。
顔や身体の抽象化されているものの、ほとんどの土偶は乳房をつけ、さらに妊娠の表現をしています。つまり身ごもった女性を表しているのです。ハート形土偶をみてみましょう。
ハート形の顔は不必要な部分を省略し眉から口までの輪郭で表現した造形で、さらに全体もみごとに抽象化されています。そして、胸には乳房があり腹部には縦線により妊娠を表しているのです。このことから土偶は生命誕生の神秘性を具現化(ぐげんか)したもので、生きることへのひたむきな願いが込められていると考えることができるのです。さらに新たな生命の誕生に社会の永続性を希求(ききゅう)する人間の心もみえてくるのではないでしょうか。土偶は「生命の造形」といえるものです。
展示室ではハート形土偶の横にパウル・クレーの人物画を並べています。驚くほど似ているこのふたつの造形はなにをものがたるのでしょうか。「みえるものを再現することではなく、みえないものに形をあたえることだ。」というクレーの芸術。おそらく3500年まえの縄文人も生命や心をみつめることでハート形土偶を造形したのではないでしょうか。
さあ、土偶をガイドに「心」を探るタイムトラベルにでかけてみようじゃありませんか。